いつもの通り、僕は奥さんと居間で夕食を取っていた。

ウチは夫婦二人だけだから、食卓は二人がけの小さいものだ。
居間のテレビからニュースが流れている。
僕はテレビの映像は見ずに、音だけ聞き流していた。

次のニュースです。東京で道端のドブに見なれないカメがいるのが発見され、騒ぎになりました

カメのことが話題になっているな。
僕はカメが大好きなので、テレビの方へ注意を向けた。

このカメはカミツキガメという種類のカメで、その異様な姿に驚いた第一発見者が警察に通報し、上野動物園の職員が出動して大捕物になりました

ふーん、カミツキガメか。日本で一般に飼われているカミツキガメはコモン・スナッパーというやつだ。

僕はそう奥さんに説明した。
たしかにすごい外観のカメだから、初めて見る人は驚くだろうな。

テレビの画面を見ると、大きなコモン・スナッパーが映っている。

大きいなあ、こいつは

あそこまで大きくするのには何年かかるかな。
僕も昔コモン・スナッパーを飼っていたことがある。
カメの飼育が好きな人にはそれほど珍しくないカメだ。
それにあの手のカメの中では比較的安価なので買いやすいのもポピュラーな理由であろう。

結局近くの家から逃げ出したものであるとわかりました。飼い主によれば、恐ろしい外観とは裏腹に、人に噛み付くことはないおとなしいカメだとのことでした

えーっ、あれだけ大きなコモン・スナッパーなら噛み付かれたら大変なことになるよ。
もっとも長く飼っていれば、人にはよくなついているのかな?

僕は自分のかわいがっていたカメたちのことを思い出した。







中学生から高校生の頃にかけて、僕はたくさんのカメを飼っていた。
いまだに理由はよくわからないのだが、僕はカメが大好きだったのだ。

たくさんと言っても、半端な数ではなく、僕の部屋は水槽だらけだった。
多分一時は50匹以上いたのではなかろうか?

ミドリガメばかり何匹も入っている小さなプラスチックの水槽もあって、夜遅くまで受験勉強をしなければならない時は、机の上にその水槽を持ってきて、カメたちを見ながら勉強をした。
夜遅くなると、そのカメたちが次々とあくびをして面白かった。

ミドリガメは正式にはミシシッピー・アカミミガメと言って、外国から大量に入ってきた。
熱帯魚屋でミドリガメの入っている水槽を注意深く見ると、まれにその中に甲羅に渦巻き状の模様の入ったコロンビア・アカミミガメという違う種が混ざっていて、それを見つけたときは絶対「買い」だった。

僕は今でも時々熱帯魚屋があると覗いてみるのだが、最近はコロンビアをぜんぜん見ないので、あの頃とはルートが違うのかもしれない。

正直言うと今でも時々熱帯魚屋で水槽の中を物色する夢を見るくらいなのだが、何分奥さんがああいったものが大嫌いなので、実際に買うことは許してくれない。
爬虫類の体にある模様が特に許せないらしい。

実はミドリガメみたいな大きさのカメを飼うのは一番難しい。
よく縁日なんかでも売っているが、たいていは数ヶ月で死んでしまう。
それを考えると、かわいそうなので買わなくて正解かもしれない。
もし飼おうと思うなら、少し大きいカメの方が丈夫でお勧めである。

カメはもともと冷血動物で、自分の体温を調節できない。
野生では石の上などで甲羅干しをして日光を浴び、体が熱くなってきたら水中に入って冷やすのだ。

だから飼育するとなると、それが可能な環境を作ってやらなければならない。
だが小さな水槽の中でその両方の環境を再現するのは至難の業だろう。
日が当たらなければすぐに病気になってしまうし、熱すぎれば当然すぐに死んでしまう。

病気になったカメには栄養剤のポポンSをスポイトで与えるのがいいなどと言われ、僕の家では薬局で買ってきたポポンSのビンが冷蔵庫に入っていた。

最近の熱帯魚屋を見ると、カメセットなどと称してカメ専用の飼育セットを売っているが、そんなに簡単に飼えるものなのだろうか?

カメは水もすぐに汚してしまい、そのせいでほうっておくとすぐに病気になってしまう。
だから本格的な水槽をセットするよりも、プラスチック製の軽い水槽にしておいて、しょっちゅう水を変えてやった方がいい。

生き物は皆そうかもしれないが、飼育にはかなり手がかかるのだ。

飼いきれなくなったミドリガメを川に捨ててしまう人がいる。
それが野生化して生き延びてしまい、このままでは日本の生態系を破壊するのではないかと心配する声をよく聞く。

郊外の橋の上で川を見ていると、20センチくらいの大きさになったミシシッピー・アカミミガメを見かけることがある。
もともとはもっと暖かい環境に生息しているカメであるが、日本の自然環境に上手く適応してしまったのだ。
下手に水槽で飼われるよりその方が環境がいいのかもしれない。

コモン・スナッパーは外観がすごいカメで、カミツキガメの名の通り噛み付かれたら大変なのだろうが、実際に噛み付かれた事はないのでよくわからない。

よく似たカメで、ワニガメとかマタマタもいたが、そちらはとても高くて僕には手が出なかった。

スッポンやウミガメも飼っていたことがある。

ウミガメはとてもかわいがっており、小亀の頃からから飼育を始めて30センチ近くまで成長させた。
ところがある日原因不明で体調を崩してしまい、あわてた僕は必死になって上野動物園などあちこちに電話してアドバイスをもらったが、ついに看病の甲斐なく死んでしまった。

あの時は悲しくて涙が出てきた。
祖母に「子供を亡くしたらこんな風に悲しいものなのだろうか?」と尋ねたら、「子供を亡くしたらこんなもので済むわけないでしょう!」と言われたのを覚えている。

高校生の時になるとカメが多くなりすぎて、えさの確保が大変になった。

ちょうど郊外に引っ越したので、僕の父親が毎朝川に釣りに行き、カメのえさにする小魚を釣ってきた。
父親は「まったくお前の尻ぬぐいをするはめになった」と怒っていた。

当時僕には夢があった。
自宅の庭に池を作って、そこからポンプで水を吸い上げ、その水を用水路みたいな溝を通して家の回りを一周して濾過してやり、再度池に戻すという壮大な案だった。

しかし自宅の庭に池を持つと病人がでるという言い伝えがあり(実際紫外線の水面からの反射の関係で、まんざら嘘でもないらしい)母親から強く反対されていた。
これに関しては後年オーディオ評論家の長岡鉄男氏が僕の案とまったく同じ事を自分の夢として書いているのを読んで驚いたことがある。

結局カメは飼いきれなくなって困っていたのだが、ちょうど目黒に住んでいる親戚の家に池があり、カメを飼うにはなかなか良い環境だったので、お願いしてすべて引き取ってもらうことになった。

あれほどいたカメがいざ一匹もいなくなってみると、長く飼っていたカメたちだから、さすがの母も「何だか寂しいわね」とつぶやいていた・・・






そんなことを思い出しながらテレビのニュースを見ていた。
あのカメたち、今頃どうしているのかなあ?



この逃げたカミツキガメの飼い主は目黒区の○○さんで…


ブーッ!!
食事を噴出してしまった。

えええ???じゃあ、あのでかいコモンスナッパーは僕の飼っていた…!?

思いもかけないところでわが愛ガメの姿と再会することになった。




ちなみに親戚の○○さんのお宅には、その年の暮れにも「今年お騒がせのあの人はその後…」という企画で再度テレビ局がやってきたそうである。


すいません、元はと言えばすべて僕のせいだったんですね。



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