☆ ダーティ・ハリーのホルスター ☆
S&W・M29・44マグナムを手にハリー・キャラハン刑事を演じるクリント・イーストウッド。眉間に皺を寄せて熱演している。
 西部劇が衰退した原因のひとつは、ネイティブ・アメリカンに対する扱い方であると言われています。彼らを「悪」と決め付けることで善悪の関係を明確になるよう設定した単純なストーリー展開は、大衆の心をつかみ、西部劇人気の要因となりました。
 しかし、人種差別が社会的な問題になり、より正確でリアルな描写が求められた時、皮肉な事に映画としての西部劇は命を絶たれたのです。
 同時に、当時台頭してきたマカロニ・ウエスタンの影響を受け、シナリオを暗く残酷でより複雑な物にしようとしたことが、不人気に拍車をかけたのです。

 マカロニ・ウエスタンで世界的スターになったクリント・イーストウッドは、西部劇衰退の一役を担ったと言えるかもしれません。しかし、彼は程なくハリー・キャラハン刑事と言う次の大ヒット・キャラクターを作り出しました。

 刑事ものという分野は、善悪がはっきりしているという意味で、西部劇を正式に後継した分野であると言えたのです。
 何しろ相手は文字通り「悪人」ですから、深く考える必要はありません。何の躊躇もせずに引き金を引けるわけです。
 「ダーティ・ハリー」は、そのストーリーがあまりに警察賛歌になっている上、ハリーが何でも銃で解決するという暴力的性格であるため、アメリカ国内では批判を集めましたが、映画そのものが痛快で原始的とも呼ぶべき爽快感を持っていたため、世界的な大ヒットとなり、大スター、クリント・イーストウッドの名を不動のものとしました。

 ここで西部劇と直接関係のの無い、「ダーティ・ハリー」のホルスターを取り上げる事をお許しください。

 彼は、対人用としてはオーバー・パワーのS&W社M29・44マグナムという、当時世界最強の拳銃を持ち、それを容赦無く犯人に対しぶっ放しました。
 「ダーティ・ハリー」出演のオファーがあった時に、それを断ったと言うジョン・ウェインがこの映画の大ヒットを悔しがり、小型サブマシンガンの
イングラムを片手に、刑事もの「マックQ」を撮影したのは有名な話です。
 私の世代は、イーストウッドというと何と言っても「ダーティ・ハリー」で、映画館に観に行ったり、TVで放映した翌日の教室は、ハリーの話題で溢れていました。興奮のあまり、ハリーが銀行強盗を車ごと撃つシーンのセリフを、ハリーになりきって再現して見せる者もいました。 

 当然ハリーのショルダー・ホルスターは注目されました。しかし、当時アメリカは遠い国であり、細部に関する情報はほとんど手に入りませんでした。映画館に通いつめ、食い入るように見つめた画面の中から、情報の断片を得るしかなかったのです。
 当時渋谷にあった、とあるショップで、映画の中で使われたローマン社製のショルダー・ホルスターが少数入荷したという話が伝わってきました。ローマン社は、その後潰れてしまったため、もう二度と手に入らないだろう、という事でした。私は、なけなしの小遣いをはたいて、そのローマン社のホルスターを購入しました。しかし、事もあろうに、当時S&W社よりコルト社が好きだった私は、
M29用を買わずに、コルト・パイソン用のホルスターを買ってしまったのです。今にして思えば、なんてばかな事を・・・と思います。
 その後、渋谷のショップは無くなってしまい、そのショルダー・ホルスターは20年以上も私の部屋に飾ってありました。
 そのホルスターは、銃のシリンダーの当たる部分が丸くくり抜かれており、その周りに板ばねが縫い込まれていて銃を保持するようになっています。実際に映画の中で使われた物は、この部分のデザインが少し違っているように見えます。
 本当に映画でローマン社の製品が使われているのかどうか、それは長い間の謎でした。

 「ダーティ・ハリー」の信仰者は日本にも山のようにいますから、当然日本のメーカーもダーティ・ハリー・ホルスターのレプリカを作っています。私も時々店頭で見かけました。
 肝心のローマン社製ホルスターの方は、つい最近になって、二つ目をあるアメリカ人から安く入手することができました。私はこのアメリカ人に、ホルスターの由来についていろいろと質問しました。彼は、よく日本人がそんなことを知っていたなと、大変喜び、思い出話を語ってくれました。

 彼は、過去にたくさんのホルスターを売ったけれど、このローマン社のホルスターは、クオリティの面において、過去最高のショルダー・ホルスターであると断言しました。彼は20年くらい前に、何人かの人にこのショルダー・ホルスターを売ったけれども、ある日ローマン社の代表の人物が破産したと、裁判所から一方的に通知を受け、彼自身も金銭的被害を被ったそうです。
 実際にホルスターを製造していた人物は別の人だったらしく、その後も新しい会社を設立しましたが、短命に終わったようです。

 結局ローマン社のホルスターが本当に「ダーティ・ハリー」で使われたのかどうか、彼も知らないようで、未だに謎のままです。イーストウッドと話す機会でもあれば、聞いてみたいところですね。
 しかも新しく手に入れた二つ目のホルスターも、
コルト・パイソン用でした。
 ああ、がっかり・・

ローマン社のダーティ・ハリー・ショルダー・ホルスター。当時渋谷にあったガン・ショップで購入した。残念ながらコルト・パイソン用だ。
久しぶりに手に入れた2個目のホルスターもやはりコルト・パイソン用であった。ホルスターの裏側はこうなっている。
ショルダー・ホルスターという性格上、上着を着ているハリーの映像には、ほとんどホルスターは登場しない。銀行強盗を撃つために、ハンバーガーをかじりながら店から出て行くシーンで、銃を抜く時にちらりと見えるのが印象的だ。この写真では、バックの映画館で「恐怖のメロディ」を公開中なのがわかる。