☆ シェーンのホルスター ☆
シャイアンの殺し屋ジャック・ウィルソン。好物はコーヒー。
これはラッドの有名なショット。コンチョは見えないが、ホルスター部の形はよくわかる。
 シェーン」という作品が、西部劇の最高傑作の1本であるということは、西部劇ファンにとっては、もはや当たり前のことかもしれません。私にとっても、「シェーン」は特別の作品で、時々急に見直したくなり、「よし、今日はシェーンを観てやろう」ということになり、年間に数回は見てしまう作品です。
 「シェーン」については、自分にとってのベスト・ムービー、と言う人が大勢いて、作品に関しても語り尽くされた感があります。精密な映像というわけでもないのに、作品全体から発せられるエネルギーは比類の無い物で、「奇跡的な出来の作品」の一本だと思います。
 亡くなった私の祖母も映画好きで、「シェーン」が公開された時の思い出話を時々話していました。多くの人が、作品の持つ魅力に感化されたのでしょう。

 では、「シェーン」のガンベルトとは、どのような物だったのでしょうか。「シェーン」は、ストーリーの上で、「早撃ち」が重要な位置を占めていますから、当然そのガンベルトも注目されます。
 スターレットの家で、シェーンが椅子の背にかけたガンベルトを、ジョーイ少年が憧れの目で見つめるシーンがあります。黒い皮製のベルトにスターリング・シルバー製の複雑な形のコンチョ、ホルスターは「メキシカン・ループ」パターンですが、ベルトに二つのリベットで固定されています。銃はコルトSAAの7 1/2インチ・タイプで、長い銃身がホルスターの先端から突き出していました。

 私は、このベルトの複製が欲しくて、アメリカのJ.L.という人物に、このホルスターのレプリカが作れないかと打電しました。彼は、その時の私のように、自分の特別の思い入れがあるガンベルトを、調査して形を判別し、特注で作ってくれる、という職業の人物でした。アメリカにはいろいろな人がいますね。

 彼は私の依頼を受けてから、ずいぶん長い時間をかけて、このガンベルトに関して調査しました。彼は過去に別の人物の依頼で、殺し屋ウィルソン(ジャック・パランス)のガンベルトを調べたことがあるようで、そちらの方は、既に彼のレパートリーに入っていました。
 ちなみにウィルソンのガンベルトの特徴は、全体にカービングが施されており、「バスカデロ」パターンでありながら、二つのホルスターが両方とも体の前面に近い部分に位置する、という特殊な物です。「黒づくめ」のウィルソンらしい、癖の強いガンベルトですね。(原作ではシェーンの方が「黒づくめ」です。)この時代に「バスカデロ」というのは、時代考証上おかしいのですが、それはこの頃の作品の限界かもしれません。

 「シェーン」のガンコーチは、ロッド・レッドウィングという、ネイティヴ・アメリカンの人物が担当しました。
 レッドウィングは、「
シェーン」以外に、「真昼の決闘」や「ヴェラクルス」、「OK牧場の決闘」等のガンコーチも引き受けており、「シェーン」の中で南軍くずれのエリーシャ・クックが撃たれるシーンや、殺し屋ウィルソンが後ろに吹っ飛ぶ迫力あるシーンは、彼のアイディアであるといいます。
 また「
真昼の決闘」で、グレース・ケリーが、やむなく夫を狙う悪人を撃ち殺すシーンも、彼のアイディアだそうです。

 本当でしょうか?
 本当なら大変なアイディア・マンですね。
 J.L.氏は、コンピューター解析で、「シェーン」のガンベルトの形状を調査すると同時に、レッドウィングをよく知っている人物数名を探し出し、聞き込み調査を行いました。
 その結果、このガンベルトには、オールド・ウエストの時代にはあまり見られなかった、ハンマー・ソングと呼ばれる、銃の撃鉄に引掛ける革製の紐(銃の固定具)があったことがわかりました。
 また、アラン・ラッドがこのリグを装着したときは、バックル部分のコンチョが、隣のコンチョと重なる事もわかりました。
 実物のガンベルトは、アラン・ラッドの財産が、彼の亡くなった数週間後、火事で焼けた時に、焼失したらしい、とのことです。
 また、問題の銀のコンチョを作ってくれる職人も見つけ出しました。
 こうして「シェーン」のガンベルトは復元されたのです。
 完成までに約二年の歳月を必要としました。

 銀のコンチョの形が、実物より荒っぽいという指摘がありますが、スターリング・シルバー製のコンチョを、現物通りの高いクォリティで作ると、それだけで数十万円になってしまうので、ほどほどにしておいたのでしょう。
 彼は、私にこのガンベルトを渡す時、彼自身の思い出について語ってくれました。

 彼の子供の頃、「シェーン」の原作者であるジャック・シェーファーが彼の家の近くに住んでいました。シェーファーの娘は、彼のガール・フレンドのひとりで、父親であるミスター・シェーファーとも、とても親しくなったそうです。やがてこの家族は引っ越していき、以後二度と会うことはなかった・・・彼は懐かしそうに、そう語りました。
 そのため、この仕事は、彼にとっても、とても楽しい物だったそうです。
 さて、「シェーン」の作品としての出来にはまったく関係ないのですが、最後に「シェーン」マニアの間でよく話される、3つの「謎」について、書いておきましょう。次にご覧になった時の参考にして頂くと、おもしろいと思います。

1.冒頭のワイオミングの山々をバックに、シェーンが馬に乗ってこちらに来るシーンで、シェーンの後方を、車が横切る。

 これについては、日本でも気付いた人がいて、どうも高速バスらしき物が横切るのが見えた為、実際に現地を訪れたら、そこに道路があった、というのを本で読んだことがあります。当然ジョージ・スティーブンスも気がついたでしょうが、鹿の演技があまりに良かった為、承知の上で使ったのではないか…という話しでした。この事実は、アメリカでも有名な話しで、白いピック・アップ・トラックが横切る、と言われているようです。

2.ジョーイ少年に乞われて、シェーンが早撃ちを披露するシーンで、シェーンの人差し指が、銃の引き金(トリガー)に掛かっていない。

 ジョーイ少年が、耳を手でふさいで、その前でシェーンが銃を構えている、というスチルは、「
シェーン」の有名な1シーンとして、いろいろな本に載っています。この写真で、シェーンの人差し指がトリガー(ひき金)に掛かっていないのがわかります。紐でトリガー・ガードにしばりつけてあるのでしょう。おそらく早撃ちに不慣れなアラン・ラッドが、勢いよく銃を抜いた瞬間、引き金に指をかけるのが困難だったため、あらかじめ紐で引き金を縛って、引きっぱなしの状態にしておいたのだろう、と言われています。こうすれば、ラッドは左手で撃鉄(ハンマー)を煽ってやるだけで、連射できる、というわけです。

3.最後の決闘で、ウィルソンを倒したシェーンが、すかさずライカーに銃を向けた時、いつのまにか銃がコルト・モデル1878のダブル・アクションに入替わっている。

 これも銃の扱いに不慣れなラッドのために、シングル・アクションのピースメーカーから、引き金を引くだけで連射できる、ダブル・アクションの銃に変えたのだろう、と言われています。ラッドは、一応ファニングする振りをしますが、実際には引き金を引くだけで、次の弾は発射できるのです。

 後年、J.L.氏は、「仕事でロイ・ロジャースに会いに行くぞ」と連絡してきました。私は、「日本にもあなたの熱烈なファンがいる」と伝えてくれるよう彼に頼みました。(本当はそれほどロイ・ロジャースのことは知らないのですが・・・)

 程なくして彼はロイ・ロジャースの部屋で、誇らしげにロイと握手している写真を送ってきました。私はそれを見た時、きっと舞い上がって私の事は言わなかったな・・・と悟りました。

ロイ・ロジャースが亡くなったのは、それから数ヶ月後のことです。

シェーンとスターレットの殴り合い。いかにもスタジオ撮影のスチルだが、ガンベルトの様子がよくわかる貴重なショット。
こうして復刻されたシェーン・リグ。J.L.氏の熱意の賜物である。
シェーンがジョーイ少年にせがまれて、早撃ちを披露する有名なシーンだが、人差し指がトリガーに掛かっていない。