☆ ジョン・ウェインのホルスター ☆
リオ・ブラボー」のジョン・ウェインの有名なショット。お気に入りのガンベルトに、有名なレッド・リバーのバックルをしているのがわかる。
 ジョン・ウェインという俳優が、西部劇俳優の代表格であることに異論を唱える者はいないでしょう。
 彼は父親のような威厳を持ち、「強いアメリカ」を体現していました。
 それが今の風潮に、必ずしもそぐわないのはわかっています。彼は極端なほどの保守派で同時に鷹派であり、思想的に嫌な映画ファンも多いはずです。
 しかし、彼の持つ「おおらかさ」には、多くの西部劇ファンが惚れました。彼は西部劇ファンにとっては、まさに神様のような人なのです。
 それはアメリカでも同じ事のようで、いまだに西部劇関連の雑誌では、ジョン・ウェイン特集を定期的に組んでいるようです。アメリカにも、彼を神格化している西部劇ファンは大勢いるのです。
 「西部劇ファン」の趣向が、必ずしも一般的な「映画ファン」の趣向と一致するとは限らないので、政治的な意味合いなどどうでもよく、単純に彼の持つ「強いアメリカ」の雰囲気が好きだ、という人がほとんどなのでしょう。

 クリント・イーストウッドの場合は、TV俳優から、(本家西部劇の息の根を止めたと思われている)「スパゲティ・ウエスタン」へとつながる経歴を持つので、正統派とは認めない態度を取る人も多いようですが、ジョン・ウェインの場合は、若い頃から西部劇に出演しているので、古い時代の作品を良しとする人達からも、一目置かれているようです。
 ところで彼のガンベルトは、たびたびファンの間で話題になってきました。 他の俳優がアルボなどの「バスカデロ」パターンを愛用する中でも、彼は頑固に自分オリジナルのガンベルトを使いました。それは、ちょうど日本に彼の映画がたくさん入ってきた時期と一致するので、彼のガンベルトは、多くの日本のファンの目にもとまり、注目されました。
 ジョン・ウェイン自身も、たいそう気に入っていたのか、歳をとってお腹が大きくなり、ベルトが入らなくなっても、バックルの位置をずらして対応し、そのリグを使用することに固執していたようです。

 ジョン・ウェインのリグは、白っぽい素材のベルトをベースに、皮製のカートリッジ・ループを取りつけ、ホルスターは、「メキシカン・ループ」パターンの茶色い皮製のものでした。ホルスターのデザインは、かつてのアル・フーストナウ製のNo.101に近いデザインを、より現代的にリファインしたものです。
 カートリッジは、44−40か45ロング・コルトの弾丸をさしていましたが、右から13個目に長い45−70を一個だけ付けています。これは幸運のおまじないとか、弾の残数確認のためとか言われています。
 このリグは人気が高いので、現在でも多くのガンベルト職人たちが、複製品を作っています。私の知る限りでも、たいへん多くの会社が「ディークのホルスター」などと呼んで、自社のカタログに載せています。

 過去に作られた物の中では、ビアンキ社が1981年に3000個限定で作った「ジョン・ウェイン記念ホルスター&ガンベルト・セット」が、決定版であろうと言われています。ウェイン・エンタープライズが、責任監修し、認定証を付けて販売したからです。
 私は大学生の時、日本で売れ残っていたこのリグを安く購入したのですが、今ではプレミアムが付き、アメリカ国内でも高く取引されているようです。
 このリグのベルト部分は、厚みのあるベージュ色のスエードが使われています。

 問題は、このベルトのベージュ色の部分の材質なのですが、実物が一体何で出来ているのか、物議をかもしています。果たしてスエードなのか、それともキャンバス地なのか・・・
 というのも、実際にオールド・ウェスト時代に使われた軍用ベルトの中に、キャンバス地のベルトに革製のループというカートリッジ・ベルトが存在し、ジョン・ウェインのリグは、明らかにそれをモチーフとしてデザインされているからです。
 複製品メーカーの中には、この素材はキャンバス地であると断定して、キャンバス地の製品を作っているところもあります。
 ジョン・ウェイン・リグの実物は、「ジーン・オートリー博物館」に展示されています。しかし、ベルト部分はぼろぼろで、材質が何でできているのか、見ただけでは判別できません。

 スエードなのか、キャンバス地なのか・・・多くの人にとって、このことは謎でしたが、私はひょんなことから、当時ビアンキ社で、自分が実物から記念モデルを作成した、という人と知り合う機会がありました。
 彼は、現在はプロのホルスター・デザイナーをしていますが、かつてはビアンキ社の重要なポジションにいた人で、私がホルスター好きと知ると、当時の思い出の品をいくつかプレゼントしてくれました。
 私はこの願ってもないチャンスに、早速長年の疑問を彼にぶつけました。彼は丁寧に私の質問に答えてくれました。以下に彼の答えの要約を載せようと思います。

  「…ジョン・ウェィン・リグについて言うならば、この時代(西部劇の舞台となるオールド・ウエストの時代)の(モデルとなった)ベルトがキャンバス地で作られているにもかかわらず、ジョン・ウェイン自身が付けていた物は、スエード製でした。

 この手のベルトは、特殊な構造ゆえ、いくつかの特長を持っていました。目を凝らして(当時のベルトの)写真を見てみると、ベルトの片側にのみ縫い目があることに気付くはずです。反対の側は折り曲げてあるのです。オリジナルのウエスタンのベルトは、バックルのそばに切れ目等を入れることで穴を開けてありました。その中に、カウボーイたちは価値のあるものをしまっておいたのです。ある種のマネー・ベルトと言えるでしょう。現金や請求書、そして一番重要な彼らの馬の権利書・・・と言うのも、オールド・ウエストでは他人の馬を盗む事は重罪で、縛り首でしたから、馬の権利書は大変重要だったのです。

 このタイプのウェインのリグを、最初に作り上げたという名誉は、一般にアンディ・アンダーソンに与えられています。私がビアンキ社のためにしたことは、まさに「忠実に」そのコピーを作る事でした。なぜならウェインの息子であるマイケルが、正確な複製を私たちに要求したからです。
 アンダーソン自身は、この10年くらいで亡くなりました。彼の職人芸、特にユニークなカービングは、マスターと呼ぶにふさわしいものでした。

 ベルトにさしてあるカートリッジを注意深く見てください。そして、その内のひとつが他の物より長い事に注目して下さい。そのカートリッジは、ライフル用の45−70です。これは特別にそうしてあるわけで、左側から、指先でさわって弾を使っていくカウボーイたちが、その長いカートリッジに触れた時、ベルト上に残りが12発しかない事を教えていたのです。」

 彼の文章は、モデルとなった実物のベルトがスエード製であったことの、決定的な証拠となります。少なくとも、マイケル・ウェインからビアンキ社に渡されたリグは、スエード製だったようです。
 しかし、ジョン・ウェインのリグは、複数存在していたという説もあるので、彼の発言が、「キャンバス地」説を完全に否定したとは言いきれません。
 この「不可解」と言ってもいいジョン・ウェインのベルトは、わざわざ二つに折り曲げて、縫い合わせてありながら、マネー・ベルトにはなっていないのです。
 一体なぜ?謎は深まるばかりです。

3000個限定でウェイン・エンタープライズ監修のもと作られた、ビアンキ製「ジョン・ウェイン記念ホルスター&ガンベルト・セット」。学生時代に売れ残っていた物を安く購入したが、今ではプレミア付き。
これが中身。ガンベルトとシリアル・ナンバー付きのベルト、証明書、ジョン・ウェインからの手紙のコピーなどが入っている。なるほどかなり凝っている。
ジーン・オートリー博物館のジョン・ウェインのコーナー。
ジーン・オートリー博物館に展示してあるジョン・ウェイン・リグの実物。
これがホルスター部分のアップ。ベルトの材質が何なのかは、この写真で見る限り判定しかねる。