☆ ふたつのオールド・ウエスト A ☆
TV映画「モンタナへの夢」で使用された「メキシカン・ループ」ホルスター。映像には細かいところまで写らないので、細部はラフに作ってある。誰が使用したかは不明。
初期の映画に使用されたという映画用プロップのホルスター。これは案外オーセンティックな形をしている。これだけ古いと、アンティーク的な価値も有する?
TV用6時間ムービー「モンタナへの夢」の主人公ガスを演じるロバート・デュバル。多くの現代カウボーイ達の模範となっている。ガスの帽子やブーツの複製品が売られているくらいだ。ちなみに女性はガス、男性はウッドローにしびれるらしい。
 西部の歴史を調べていくと、つい100年前の事にもかかわらず、真実がはっきりしない事が多いのに気付きます。
 原因のひとつとして、おおげさに嘘を並べ立てて、劇作家が大儲けをしていた、という事実があげられます。彼らは、西部のちょっと名の知れたガンマンを見つけ出しては、ありもしないでたらめをでっちあげて、本や劇の脚本にして儲けていたのです。
 そのため、真実が闇の中に埋もれてしまい、研究するのが困難になってしまいました。
 歴史的には、20世紀に入り、映画産業と結びついた頃から、状況はもっと悪くなりました。映画の中には、現実とはかけ離れたフィクションの世界しかなかったのです。
 映画スターたちは、自分を目立たせるために、より派手な装飾を好みました。実際にオールド・ウエストで使われていたかどうか、なんてことはどうでもよかったのです。
 そしてそれを見た多くの人々は、それを歴史的な真実であるかのような錯覚に陥りました。
 このため、歴史に興味を持っている人達は、西部劇をとても嫌います。歴史について語るときに、映画で見たことを言うなんて、タブーなのです。西部劇は、言うなれば、歴史をぶち壊した張本人というわけです。
 一方で、映画や早撃ちに夢中の人たちにとっては、アンティークの世界なんて、知ったことじゃあないのです。もとより、カッコいい男に憧れて見ているだけですから・・
 アメリカの歴史は、考えてみれば先住民族を追い出した歴史ですから、真実を描いたところで、陰湿な殺戮の映画にしかならないのかもしれません。
 そういう事があり、この二つの趣味は、互いに合い入れないわけです。
 実際、西部劇の全盛の頃は、時代考証なんてあまり考えていなかったようです。
 早撃ちという特殊な技術をクローズアップし、まるで街中の人が、早撃ちの練習に勤しんでいたかのような架空の世界を作り上げました。
 実際のオールド・ウエストのガンマンの中には、相当早い人もいたようですが、何より殺傷力のある実弾入りの銃ですから、命がけです。ただやみくもに早くぶっ放すことより、確実に命中させることの方が、はるかに大切だったのです。
 作品としての西部劇は、TV映画の「モンタナへの夢(ロンサム・ダブ)」が作られた頃を境に、多少変化してきました。
 このドラマに登場するカウボーイたちは、身体の左側に、グリップを前方に向けたガンを吊り下げて、抜く時はクロス・ドローで抜きます。
 作品の出来が良かったこともありますが、時代考証に関して、この作品は十分吟味されており、以降製作される西部劇に絶大な影響を与えました。
 そして西部劇ファンたちに、オールド・スタイルのホルスターに少なからず興味を抱かせた功績も大きいと言えるでしょう。 
 最近では、「カウボーイ・シューティング」の流行などがあり、古いスタイルのホルスターの需要が生じたため、早撃ち用ホルスターや、現代ホルスターの職人たちが、オールド・スタイルのホルスターを作り、カタログに載せているようです。
 しかし、これは個人的見解ですが、現代ホルスターの職人たちの作るオールド・スタイルのホルスターは、往々にして下手だ、と思います。
 アンティークの複製品を作る職人にとって大切なのは「いかに正確に再現するか」であり、現代的ホルスターの作者のような「創造的」要素は少ないのかもしれません。
 早撃ち用ホルスターを作ってきた職人たちは、長年「いかにしたら早く抜けるか」「いかにして他社と違うオリジナルを作るか」を追求してきたので、どうしても現代的でモダンなラインをデザインに付け加えてしまい、複製としての価値を失ってしまう傾向があります。
 
 先日私は、アンティーク界で有名な研究者やコレクターたちの、小さい頃の写真を雑誌で見ましたが、皆カウボーイの恰好をして、ご機嫌でおもちゃの馬に乗っているものばかりでした。
 私はそれを見たとき、「なんだ、彼らにとっても原点はやはり西部劇じゃあないか・・・」と気付き、思わず吹き出してしまいました。